滅してなお君に見(まみ)えむ

 骨まで愛してくれますか。
 そんなどこかで聞いたことのあるフレーズを真剣な眼差しで彼女は口にした。

 私は二の句が継げず黙り込んでしまった。なぜなら今まで彼女は自分の生い立ちを話していたのだ。その話の最後の台詞が「骨まで愛してくれますか」だ。
 彼女は少し陰のある女性だった。私の目にはそこがたとえようのない魅力に映り彼女の気を引き始めた。自然と彼女と親しくなった。
 仕事帰りに飲み屋によって会話を重ねた。今夜はそんないつもの夜から一線を越えられたらと気負っていたからだろう、彼女の子供時代の話を求めた。彼女は求めに応じ子供の頃の話を順を追って話してくれた。

 彼女は親のネグレクトのため施設で育った子供だった。施設では似た状況の子供たちばかりいるわけだから肩を寄せ合い、お互いに支え合って生きてきたのかと思ったが、そんなのはぬくぬくと育った私のぬるい想像でしかなかった。
 生き馬の目を抜く、まさにそんな言葉がふさわしい話だった。施設の職員は時間から時間で働くだけ。周りの子供たちも仲良しグループを形成し、それになじめない子ははじかれた。そういう状況下で周囲から一目置かれ、安全に、かつ自由に生きるためには誰よりも賢く強くなければならなかった。日和見のカメレオンでは死ぬのだ。
 いついかなる時も曲がることのない筋を貫き通すこと、彼女が身を以て得た処世術。いつしか周りの子供たちから「鉄の女」と呼ばれるようになったと寂しそうに笑った。(つづく)