僕の姉は残念だけど、最高の姉貴なんだ

 お風呂上がりの艶やかな人差し指がよく冷えた缶のプルタブに迷いなく伸びる。
「プファーー!! やっぱ風呂上がりのビールは最高だわ」
 僕の残念な姉が缶ビールを一気に飲み干して言い放つ。
 
 何が残念かって?

 風呂上がりの濡れ髪に、バスタオルすら巻こうとしない一糸まとわぬ姿で、腰に手を当て、まるで牛乳のようにビールをあおるのだ。
 そんな姉をたしなめるようにパンツくらいはけよと僕が言うのが日課となっている。すると姉は決まってこう言う。
「私は裸族よ! あんたこそやらしい目つきで見てんじゃないわよっ」
 姉弟だから姉を異性として意識したことなどない。ましてやこんな粗野な姉を女だとも思いたくない。女というのはやっぱりクラスの"あの女子"のような人をいうのだといつも心の中で確認する。そして思わず姉と彼女を置き換えてしまい腰をかがめないと立っていられなくなる。
 さすがに粗野な姉でも毎日同じ事を繰り返す僕の反応に気づいたらしく、
「あんた、クラスの◯◯子ちゃん思い出してんでしょ」
右手に握った空の缶で僕の頬をぺちぺちと叩きながら勝ち誇ったようにツっこんできた。その笑顔の憎たらしさはたぶん生涯忘れないだろう。図星を突かれ飲んでもいないのに真っ赤になっているのが自分でもよくわかった。
「ふっふーん、姉ちゃんにまっかせなさ〜い」と缶を握りしめた右手を自由の女神のように天井に向かって突き上げ、僕を見上げた・・・。
残念ながら僕のほうが背が高かった。(つづく)