海の都の物語
ヴェネツィア共和国の一千年

塩野七生 著
新潮文庫(全6巻)


 わずかな領土しか持たず、「海と結婚」することにより千年もの間繁栄を続けたヴェネツィア共和国。ローマ帝国の最後の方、蛮族の侵入(「民族の大移動」とも言いますが)から逃げるためにわざわざ岩礁と干潟しかないところに逃げ込んだ人々が作り上げた国です。
 私などシェイクスピアの「ベニスの商人」とかしか知らず、現代では単なる観光地と思っていましたが、本書を読むことにより彼らの素晴らしさを教えてもらいました。ヴェネツィアの人々は交易というものをベースにして、それを国家の基本的な考え方の根幹に置いた国づくりをしていたようです。
 いかがですか。古今東西、こんな自給自足の概念を持たないようなユニークな国はここヴェネツィアくらいのものではないでしょうか。
 特定の人物に権力が集中しないよう、何重にも牽制を掛けるなど政体のかたちにはものすごい注意を払っていました。終身の元首[ドージェ]はいたものの、彼を選出するためには複雑な選挙を通していましたし、元首には任期6ヶ月の補佐官が6人付き補佐官に相談しなければ元首個人では何事も決められなかったそうです。この他にも、権力に対する牽制体制が事細かに決められていました。

 しかしながら、そうしたヴェネツィアにも死を迎えるときが来ます。
 結局、筆者はヴェネツィアが交易の利を独占できなくなったときに、手工業や農業などを含めた経済構造の多角化を進めたことではないかという。しかし、ヨーロッパには英国やオランダにより海外の植民地化が進み、地中海交易の重要度は下がる一方でしたし、新大陸で行われる農業により生産される穀物は増大する一方でした。これにより、ヴェネツィア人の投資の方向が変わってしまいました。
 そして、ついにヴェネツィアにも死が迫ってきます。

海の都の物語
第1巻 ローマ帝国滅亡後、他国の侵略も絶えないイタリア半島にあって、一千年もの長きにわたり、自由と独立を守り続けたヴェネツィア共和国。外交と貿易、そして軍事力を巧みに駆使し、徹底して共同体の利益を追求した稀有なるリアリスト集団はいかにして誕生したのか。ヴェネツィア共和国の壮大な興亡史が今、幕を開ける。
「ルネサンス著作集」中の大作、待望の文庫化、全6冊。

第1話 ヴェネツィア誕生(蛮族から逃れて/迎え撃つ/聖[サン]マルコ/海の上の都/運河/地盤づくり/広場/井戸/国づくり/橋)
第2話 海へ!(海賊退治/海の高速道路/海との結婚式/交易商品/ヴェネツィアの船/帆船/ガレー船/東方への進出)
第3話 第四次十字軍(エンリコ・ダンドロ/契約/ヴェネツィアへ/コンスタンティノープル/コンスタンティノープル攻城戦/落城/ラテン帝国/ヴェネツィアが得た“リターン”)
第2巻 ヴェネツィア共和国は十字軍の熱狂に乗じて東地中海に定期航路を確立し、貿易国としての地歩固めに成功。異教徒との通商を禁じるローマ法王を出し抜き、独自の経済技術や情報網を駆使して、東方との交易市場に強烈な存在感を示した。
宗教の排除と政治のプロの育成に重点をおき、強力な統治能力を発揮した内政にも裏打ちされた「ヴェネツィア株式会社」の真髄を描き出す。

第4話 ヴェニスの商人(交易商人(その1)/資金の集め方/交易市場/マルコ・ポーロだけではない/定期航路の確立/海上法/羅針盤と航海図/船の変化/中世の“シティ”/交易商人(その2))
第5話 政治の技術(共和政維持の苦労/政教分離/政治改革/クィリーニ・ティエポロの乱/「十人委員会」/元首ファリエルの乱/政治と行政)
第3巻 東方との通商に乗り出し、地中海の制海権を握ろうとしたのは、ヴェネツィアだけではなかった。アマルフィやピサといった海洋都市国家が次々と現れ、なかでも最強のライヴァル、ジェノヴァとの争いは苛烈を極めた。ヴェネツィア共和国は、個人主義的で天才型のジェノヴァの船乗りたちといかにして戦ったのか。
群雄割拠の時代を生き抜くヴェネツィア人の苦闘の物語。

第6話 ライヴァル、ジェノヴァ(海の共和国/アマルフィ/ピサ/ジェノヴァ/ジェノヴァの商人/ジェノヴァ対ヴェネツィア/ヴェネツィアの2人の男/キオッジアの戦い)
第7話 ヴェネツィアの女
第4巻 1453年、トルコ帝国がコンスタンティノープルを攻め落とし、ビザンチン帝国が滅亡。東地中海の勢力図は一変した。東方での貿易を最大の糧とするヴェネツィアはこの状況にどう対応したのか。
強大な軍事力を誇り、さらに西へと勢力を広げようとするトルコ帝国との息を呑む攻防、そしてある官吏の記録をもとに、ヴェネツィアの新興ビジネスである観光事業、聖地巡礼旅行を活写する。

第8話 宿敵トルコ(トルコ帝国/「本土」/マホメッド二世/コンスタンティノープルへ/ビザンチン滅亡/ヴェネツィアの対策/トルコの西進/スパイたち/ネグロポンテ攻防戦/暗殺の試み/外交の試み)
第9話 聖地巡礼パック旅行(まず、ヴェネツィアへ/ヴェネツィア滞在/旅立ち/イェルサレム/聖地巡礼/帰途/帰還)
第5巻 十五世紀末、ポルトガルがインドへの新航路を発見という、中世の一大ニュースがヨーロッパ中を駆け巡る。トルコ帝国との攻防も続く中、スペインに代表される君主制国家も台頭。ヴェネツィアは統治能力の向上による対抗を図るも、「持たぬ者の悲哀」を味わうことになる。
地中海から大西洋へ。海洋都市国家から領土型封建国家へ。新時代の幕開けはすぐそこまで迫っていた。

第10話 大航海時代の挑戦(胡椒ショック/航海者たち/危機/巻き返し/通商と産業と/労使の間/ヴェネツィアの組合)
第11話 二大帝国の谷間で(都市国家から領土国家へ/統治能力の向上を期して/ヴェネツィアの光と影/元首グリッティ/その息子/大国の台頭/プレヴェザの海戦/レパントへの道/レパントの海戦/海戦/レパント以後)
第6巻 ヴェネツィア共和国はトルコ帝国との争いで、交易拠点を次々に失い始める。海外交易市場の主導権もイギリス、オランダに譲り、衰退の兆しは誰の目にも明らかだった。そしてフランス革命に端を発したヨーロッパ世界の動乱。ナポレオン率いるフランス軍の圧力を前にして、かつて「地中海の女王」とさえ呼ばれたヴェネツィア共和国の命運は尽きつつあった…。
歴史大作の完結編。

第12話 地中海最後の砦(法王庁に抗して/クレタ攻防戦)
第13話 ヴィヴァルディの世紀
第14話 ヴェネツィアの死


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