新・水滸伝

吉川英治 著
講談社・吉川英治文庫(全4巻)


 今から900年前、中国は宋王朝の時代、仁宗皇帝は不作や悪疫の流行を抑えるための加持祈祷を行うため大将軍・洪信(こうしん)を道教の大本山、龍虎山に勅使として遣わすところから物語が始まります。洪将軍が龍虎山に到着して「伏魔之殿」という祠を見つけ、よせばいいのにその封を解いてしまうのです。祠には百八の魔星が封じられていたのをばらまいてしまいました。この一星一星が人間と化して梁山泊に集い、天下を揺さぶるのです。
 この出だしはなんとなく滝沢馬琴の書いた「南総里見八犬伝」と似ています。きっと水滸伝は愛読書だったのでしょうね。
 百八人の豪傑に関わるエピソードが前半部に連なります。彼らの多くは悪者の罠に引っかかり、仕方なくアウトローの世界に入るというパターンが多いのですが、お話の中には冒険あり、陰険な罠あり、色事あり、不思議な方術ありと大衆文学の代表のような構成になっています。

 百八の星とは、天罡星(てんこうせい)36人、地煞星(ちさつせい)72人です。最初に書いた、洪将軍が伏魔之殿から百八の魔星を開封した後、歳月を経て梁山泊に百八人が揃って上天に誓いを捧げているとき、宋江は天から白い光芒が尾を引いて落ちてくるのを見ました。それを掘り出してみると、神代(かみよ)文字で書かれた石碑でした。
 そこには一方には『替天(てんにかわって)行道(みちをおこなう)』と書かれており、一方には『忠義(ちゅうぎ)双全(ふたつながらまったし)』と書かれていました。その間には、なんと天罡星(てんこうせい)36人、地煞星(ちさつせい)72人、合わせて百八人の名が記されていたのです。

【天罡(てんこう)星の人】 【地煞(ちさつ)星の人】
天魁星 呼保義(こほぎ) 宋江 地魁星 神機軍師 朱武
天罡星 玉麒麟 盧駿儀 地煞星 鎮三山 黄信
天機星 智多星 呉用 地勇星 病尉遅(びょううつち) 孫立
天間星 入雲龍 公孫勝 地傑星 醜群馬 宣賛
天勇星 大刀 関勝 地雄星 井木犴(せいぼくかん) 郝思文(かくしぶん)
天雄星 豹子頭(ひょうしとう) 林冲 地威星 百勝将 韓滔
天猛星 霹靂火(へきれきか) 秦明 地英星 天目将 彭玘(ほうき)
天威星 双鞭 呼延灼 地奇星 聖水将 単廷珪(ぜんていけい)
天英星 小李広 花栄 地猛星 神火将 魏定国
天貴星 小旋風 柴進 地文星 聖手書生 蕭譲
天富星 撲天G 李応 地正星 鉄面孔目 裴宣(はいせん)
天満星 美髯公 朱仝(しゅどう) 地闊星 摩雲金翅(きんし) 欧鵬
天孤星 花和尚 魯智進(ろちしん) 地闘星 火眼狻猊(しゅんげい) ケ飛
天傷星 行者 武松(ぶしょう) 地強星 錦毛虎 燕順
天立星 双鎗将 董平(とうへい) 地暗星 錦豹子 楊林
天捷星 没羽箭 張清 地軸星 轟天雷 凌振
天暗星 青面獣 楊志 地会星 神算子 蒋敬
天祐星 金鎗手 徐寧(じょねい) 地佐星 小温候 呂方
天空星 急先鋒 索超 地祐星 賽仁貴 郭盛
天速星 神行太保(たいほう) 戴宗(たいそう) 地霊星 神医 安道全
天異星 赤髪鬼 劉唐 地獣星 紫髯伯 皇甫端
天殺星 黒旋風 李逵(りき) 地微星 矮脚虎 王英
天微星 九紋龍 史進 地急星 一丈青 扈三娘(こさんじょう)
天究星 没遮攔(ぼつしゃらん) 穆弘(ぼつこう) 地暴星 喪門神 鮑旭
天退星 挿翅虎 雷横 地然星 混世魔王 樊瑞(はんずい)
天寿星 混江龍 李俊 地好星 毛頭星 孔明
天剣星 立地太歳 阮小二 地狂星 独火星 孔亮
天平星 船火児 張横 地飛星 八臂那ダ:Unicode 5412(はちひなだ) 項充
天罪星 短命二郎 阮小五 地走星 飛天大聖 李袞(りこん)
天損星 浪裏白跳(ろうりはくちょう) 張順 地巧星 玉臂匠 金大堅
天敗星 活閻羅(かつえんら) 阮小七 地明星 鉄笛仙 馬麟
天牢星 病関索 楊雄 地進星 出洞蛟 童威
天慧星 拚命三郎 石秀 地退星 翻江蜃(ほんこうしん) 童猛
天暴星 両頭蛇 解珍 地満星 玉旛竿(ぎょくはんかん) 孟康
天哭星 双尾蝎 解宝 地遂星 通臂猿 候健
天巧星 浪子 燕青 地周星 跳澗虎 陳達
地隠星 白花蛇 楊春
地異星 白面郎君 鄭天寿
地理星 九尾亀 陶宗旺
地俊星 鉄扇子 宋清
地楽星 鉄叫子 楽和
地捷星 花項虎 龔旺(きょうおう)
地速星 中箭虎 丁得孫
地鎮星 小遮攔(しゃらん) 穆春(ぼくしゅん)
地稽星 操刀鬼 曹正
地魔星 雲裏金剛 宋万
地妖星 摸着天 杜選
地幽星 病大虫 薛永
地伏星 金眼彪 施恩
地僻星 打虎将 李忠
地空星 小覇王 周通
地孤星 金銭豹子 湯隆
地金星 鬼瞼児 杜興
地短星 出林龍 鄒淵
地角星 独角龍 鄒潤
地囚星 旱地忽律 朱貴
地蔵星 笑面虎 朱富
地平星 鉄臂膊 蔡福
地損星 一枝花 蔡慶
地奴星 催命判官 李立
地察星 青眼虎 李雲
地悪星 没面目 焦挺
地醜星 石将軍 石勇
地数星 少尉遅(しょううつち) 孫新
地陰星 母大虫 顧大嫂(こだいそう:顧おばさん)
地刑星 菜園子 張青
地壮星 母夜叉 孫二娘(そんにじょう)
地劣星 活閻婆 王定六
地健星 険道神 郁保四
地耗星 白日鼠 白勝
地賊星 鼓上蚤(こじょうそう) 時遷
地狗星 金毛犬 段景住


 この「新・水滸伝」、実は完結しないで終わってしまっています。作者の吉川さんは最後の原稿を書かれた時点では起居も不自由なほど衰弱しておられたそうです。本作品は昭和33年正月に始まり、4年間連載された原稿の最終ページには、

 余儀なく今月は短章に終わる。読者諸子のご寛恕を乞ふ。作者

 と2行に分けて書かれていたそうで、吉川英治さんが作家生活の最後にこの世に遺した文章は、この2行となってしまいました。
 私も4冊目の終わりに近づいたころ、「最後はどうなるのかな?」という疑問を持ちながら読んでいたくらいですから、作者の中にはもっともっと続きが合ったのでしょう。残念です。
 ただ、原作はもっと先があるそうですし、他の方の作品もありますので、機会があればもう一度読みたいものです。

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