水滸伝

北方謙三 著
集英社(全19巻)


 北方さんの大作といえば、『三国志』は全13巻というボリュームでしたが、今回はそれを遙かに越える全19巻!。以前から少しずつ刊行されているのは知っていましたが、全巻揃ってから読み始めようと思ってからすでに2年ほど経ってしまっていました。

 本作品を読み始めるきっかけは、朝日新聞に掲載された司馬遼太郎賞を受賞したというインタビュー記事でした。
 司馬遼太郎賞の北方版「水滸伝」
人物に「志」加え、再構築

 作家の北方謙三さんが昨年完結させた小説『水滸伝』全19巻が、第9回司馬遼太郎賞を受けた。古典を解体し、大胆に再構築した力作。25日に開かれた授賞記念スピーチでは「司馬さんにならい、膨大な資料を読み込んだうえ、それに淫することなく書いた」と話した。
 400字詰め原稿用紙1万枚に及ぶ北方版『水滸伝』の特長は、戦いのリアリティーと登場人物の造形の巧みさだ。
 確かに梁山泊に集う108人の豪傑は出てくる。しかし、豪傑が宋朝相手に勝手に暴れまくる印象の原典を、組織対組織のぶつかり合いに組み替えている。遠因には団塊世代ならではの体験があった。
「全共闘は東大入試を1年無くしたくらいしか成果はなかったけど、4年続けていれば東大がなくなったかもしれない。何かを変えるのに継続は欠かせない。反体制の運動体は勝つと新しい体制になるから、負けるしかないのだけれど、美しい敗北を描くためにも組織立ては必要だった」
 梁山泊は豪傑の個性を生かした再配置がなされた。
「原典は説話集ですから、人物の人格が統一されていない。黒旋風李逵(りき)のように純真だったり殺人鬼になったり。そんな豪傑たちの、『生き方の整合性』をつけていった」
 (中略)
 実はこの秋から再び、戦いが始まる。原典との違いを明確にするため早々に死んだ青面獣楊志の養子、楊令を主人公にした続編だ。
「次第に息子のように思えてきた人物。とりあえず5千枚と考えていますが、『水滸伝』も13巻の予定だったから、わかりません」

 上の記事にもありますが、本書は『水滸伝』をもとにしてはいますがかなり改変されています。原作も面白いものでしたが、やはり元は講釈ですから「面白おかしく」作り話っぽいところが随所にあります。それを下敷きにして北方さんは「志」を主題にした小説に書き換えてしまいました。

 本書では宋江らは最初から宋という腐敗した国を打ち破り、かつて王安石が作ろうとして作れなかった民中心の国を作ろうという意志を持っています。その志を説いたものを魯智深がわかりやすく本にまとめ、それに晁蓋が「替天行道」という題を付けたことになっています。原作では、あくまでも国逆らうものではなく、忠義を尽くすというお話でした。
 また、原作と同じようなエピソードは出てきますが、そもそも全体の趣旨が違いますのでエピソードを省いたり、残っていても内容が変わっていたりしています。また、全く同じエピソードもあり、それらの対比も面白い。
@省かれたエピソード
 「魯智深、大いに五台山を閙がす」「林教頭、風雪の山神廟」など
A変更されたエピソード
 「宋江、怒って閻婆惜を殺す」「武松、闘いて西門慶を殺す」など
B原作そのままのエピソード
 「呉用、智もて生辰の綱を取る」「朱仝、義によりて宋公明を釈す」「黒旋風、浪裏白跳と闘う」など

なお、本書では節ごとに水滸伝の豪傑108人の星の名を付けていますが、氏名・あだなとの対応は『新・水滸伝』のページに載せています。
途中ですが、第6巻までご紹介しましょう。
(2006/3/26記)


いつもはかなり遅読の私ですが、今回はかなりのハイペースで読み進んでいます。まだ途中ですが、第12巻までご紹介しましょう。
まだ読んでいない人にとっては、以下の紹介文はネタバレになってしまうかもしれませんので文を隠すことにしました。
(2006/4/9記)

まだ読み続けている最中ですが、第17巻までご紹介しましょう。
かなり登場人物に感情移入してきました。梁山泊の英雄たちが一人、二人と死んでいくのがちょっと辛くなってきています。
(2006/4/29記)

ついに読了。
最後の巻では英雄達が次々と斃れていきます。原典では最後のところ、江南の方臘戦で大部分が死んでいくところとちょっと似ていますが、雰囲気はかなり違います。本作品の方が、「ドライ」かなという感じ。興味のある方は、読み比べてください。
さて、上に掲載したインタビューの中に載っていた「全共闘の体験」というところが最後まで読んでわかったような気がしました。団塊の世代の方々が味わったであろう敗北感というか、挫折感が色濃く反映しているとでもいいますか。
(2006/5/14記)

   ネタバレの紹介文を読む

1 ― 曙光<(しょこう)>の章
天罡<(てんこう)>の星 天孤の星 天罪の星 天雄の星 地暴の星
天微の星 地囚の星 地霊の星
腐敗混乱の世を糾すために檄文を書き、同志を募る宋江。使者となって全国を巡る魯智深。林冲は獄にあって苛酷な拷問に耐える。晁蓋も世直しをめざし、慮俊義らに闇塩の道の利権を確保させていた――。原典を再構築した水滸伝。
2 ― 替天<(たいてん)>の章
天傷<(てんしょう)>の星 地幽の星 天暗の星 天間の星 地耗の星
天異の星 地妖の星 地魔の星
腐敗混乱の世を糾すために檄文を書き、同志を募る宋江。使者となって全国を巡る魯智深。林冲は獄にあって苛酷な拷問に耐える。一方、晁蓋も世直しをめざしていた――。原典を再構築した水滸伝の第2弾。
3 ― 輪舞<(りんぶ)>の章
地稽<(ちけい)>の星 天慧の星 天機の星 地俊の星 地魁の星
地好の星 天満の星
北宋末。梁山泊に集い、来たるべき日に備える英雄たち! 少華山には史進、二竜山には楊志が篭る。忍び寄る密偵集団・青蓮寺の魔手。百八人の男たちをリアリティ豊かに描く。
(梁山泊で心を合わせた楊志と林冲との会話より)
「志とは、なんなのだろう、林冲。私も官軍にいたとき、志のようなものを持っていなかったわけではない。それと梁山泊の志と、どちらが正しいかと問われれば、今自分が属している方の志だ、としか答えられないような気もするのだ。」
「志は、志なりにみんな正しい。俺はそう思う。そして、志が志のままであれば、なんの意味もない」
 林冲のもの言いは、冷やかだったが、間違いではない、と楊志は思った。
4 ― 道蛇<(どうだ)>の章
天退の星 地鎮の星 地孤の星 天寿の星 天殺の星
天速の星
妾殺しの罪を着て、武松と逃亡の旅に出た宋江。行く先で顔役の穆弘や李俊と知り合い、世直しの志を説く。一方、叛乱勢力の一掃を図る官の組織・清蓮寺は、密かに工作を行っていた。
5 ― 玄武<(げんぶ)>の章
地進の星 地闘の星 地会の星 地空の星  
宋江に迫る官軍の包囲網を、公孫勝の致死軍が、林冲の騎馬隊が、そして晁蓋の本隊が破る! 北の地で捕らえられていた魯智深は左腕を犠牲にして脱出した。が、二竜山の楊志に危機が迫っていた…。
6 ― 風塵<(ふうじん)>の章
地闊の星 地文の星 地狗の星 天猛の星 地劣の星
武松らとともに旅を続ける宋江。様々な出会いがあり「替天行道」を広めてゆく。一方、魯智深改め魯達は、梁山泊の強化を図り、官軍より秦明将軍を引き込もうと奔走。痛快英雄譚、さらなる展開へ。
7 ― 烈火<(れっか)>の章
地伏の星 地理の星 地周の星 天勇の星 地賊の星
再び官軍に包囲された宋江たち。陶宗旺らの活躍で、1万数千の官軍を相手に辛くも持ちこたえ、林冲らが救出に駆けつける。宋江は双頭山に入る。いよいよ総力戦を控え、双方が動きはじめる…。
8 ― 青龍<(せいりゅう)>の章
天暴の星 地異の星 天富の星 地悪の星 地勇の星
世直しのための勢力を増す梁山泊と彼らと連携する二竜山と双頭山の三角形の中心に官の要塞、祝家荘が現出した。「水滸伝」随一の美女、扈三娘(一丈青)もついに登場。「三打祝家荘」は中国版原点でも有名です。
9 ― 嵐翠<(らんすい)>の章
天空の星 地佐の星 地微の星 地走の星 地暗の星
犠牲を出しながらも、祝家荘の戦いで官軍を破った梁山泊。林冲は妻の生存の情報を得て、戦を一人離脱する。一方、滄州では闇塩の道を探る青蓮寺の動きが執拗に続く…。己の道を貫く男たちの英雄譚。
10 ― 濁流<(だくりゅう)>の章
地威の星 地軸の星 天祐の星 地英の星 地刑の星
決戦の秋、指呼の間に迫れり! 旅を続ける武松らは代州に入る。その地を守る将軍・呼延灼は、官軍の腐敗にいらだちながらも梁山泊攻めを命じられるが…。漢たちが火花を散らす中国英雄譚。
11 ― 天地<(てんち)>の章
地然の星 地全の星 地楽の星 天地の星  
激戦の後、官軍の呼延灼将軍も同志となり、梁山泊では兵を訓練する日々が続く。総攻撃の時期を巡って宋江と晁蓋が対立する中、晁蓋は官軍切り崩しに出陣するが…。
12 ― 炳乎<(へいこ)>の章
地健の星 地傑の星 地正の星 地藏の星 地隠の星
晁蓋暗殺で悲しみに沈む梁山泊。青蓮寺の探索はついに闇塩の道に及ぶ。官軍の将軍・関勝は開封府と梁山泊の間で中立を保っていたが…。
13 ― 白虎<(びゃっこ)>の章
天剣の星 地祐の星 地僻の星 地飛の星 地退の星
晁蓋は暗殺されたが、呼延灼、関勝の両将軍を迎えて、大いに意気あがる梁山泊。しかし、官軍と青蓮寺は攻勢をかけてくる。南からは趙安将軍、北からは薫万将軍が執拗に攻めてくる。そして梁山泊も反撃を始める!
14 ― 爪牙<(そうが)>の章
地急の星 天平の星 地短の星 天究の星 地強の星
地猛の星        
晁蓋への思いを絶たれた海棠の花、扈三娘。命を救われた王英に心が傾きかける。一方、子・張平の盗癖に悩む張横は共に旅立つ。戦いの中に織り成す人の情。
15 ― 折戟<(せつげき)>の章
天英の星 地煞<(ちさつ)>の星 地遂の星 天損の星 地察の星
地奇の星        
清風山が薫万将軍に陥とされた。梁山泊をささえる支塞が次々と陥落していく中、起死回生を狙う新軍師・宣賛の打った手とは? 遂に最終の激闘へ!
16 ― 馳驟<(ちさん)>の章
天貴の星 地雄の星 地壮の星 地数の星 天牢の星
地陰の星        
北京大名府を占拠、勅命による停戦で梁山泊は危機を脱出。講和を材料に交渉しながら戦力を整える。一方、史文恭は済州に潜伏…。水面下の死闘。
17 ― 朱雀<(すざく)>の章
天立の星 地巧の星 天巧の星 地捷の星 地狂の星
地損の星        
遂に官軍最強の童貫元帥が一騎当千の将軍たちを従えて出動。梁山泊の北の要、双頭山を襲撃する。窮地に立つ梁山泊…。いよいよ最後の最大の戦いへ。
18 ― 乾坤<(けんこん)>の章
天敗の星 地獣の星 地速の星 天哭の星 地奴の星
地平の星 地角の星      
「父のように働きたい」 楊志の遺児・楊令が入山。決戦は目前に! 流花塞では宋の水軍との死闘が。一方、梁山泊本体と、童貫軍との緒戦は呼延灼の策が功を奏す…。
19 ― 旌旗<(せいき)>の章
地満の星 天威の星 地醜の星 地明の星 天捷の星
天魁の星        
童貫軍に追いつめられる梁山泊。騎馬隊を率いて童貫の首を狙う楊令。戦場に出る宋江。流花寨が陥落、梁山泊にもついに最期の時が…。男たちの熱き伝説を21世紀に甦らせた北方水滸伝、堂々完結!


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