西域伝

伴野朗 著
集英社


 『西域伝』という書物はいろいろと書かれていて『漢書』・『魏志』・『隋書』の中にあります。本書はこれらより時代を下って唐の時代に玄奘<(げんじょう)>(三蔵法師)が天竺(インド)に求道の旅をするお話です。玄奘は天竺より戻った後、本書の題とちょっと似ていますが『大唐西域記』を著わしていますが、それをベースに書かれたもののようです。というと、明の呉承恩という人が書いた『西遊記』を思い浮かべますが、こちらは四大奇書の一つといわれているくらいにぶっ飛んだものですよね。とは言え、私も幼少のおり、孫悟空・猪八戒・沙悟浄を引き連れた玄奘三蔵の冒険譚を心ときめかして読んだ口ですので、その頃を思い出しながら読みました。
 玄奘について広辞苑にはこう書かれています。
げんじょう【玄奘】‥ジャウ
 唐代の僧。法相宗・倶舎宗の開祖。河南の人。629年長安を出発し、天山南路からインドに入り、ナーランダー寺の戒賢らに学び、645年帰国後、「大般若経」「倶舎論」「成唯識論」など多数の仏典を翻訳。「大唐西域記」はその旅行記。「西遊記」はこの旅行記より取材したもの。玄奘三蔵。三蔵法師。(600〜664 一説に 602〜664)
 仏典を漢訳したものを、玄奘以前は旧訳<(くやく)>といい、玄奘以降は新訳と呼ぶそうです。それほど彼の業績は中国の仏教界にとって素晴らしいものでした。当然ながら日本へも影響を及ぼしています。

 本書では『西遊記』ほどではありませんが、面白くするために悪役を登場させています。全編を通じて悪いことを企てるのは、仏教を仇とする鬼道門の総帥が「鬼道居士」、その弟子の赤鬼・青鬼・黄鬼という人肉を食らう異形の輩です。最初は仏の子として生まれた赤子を奪おうとしますが、少林寺の僧たちに助けられます。この子が後の玄奘です。本書ではいろいろな人物が登場して歴史を動かしていきます。時代は少し前に読んだ『隋唐演義』とダブりますが、隋末〜唐にかけていろいろな政変の裏で暗躍していたのがこの鬼道門の人々(妖怪?)という設定です。
 玄奘が天竺目指して、砂漠を越えたり高山を越えたりという所は『西遊記』と似ていますが、玄奘を狙うのが妖怪ではなくて鬼道居士ということになりますが、妖術を駆使するところはそっくりです。しかし、それでは『西遊記』と同じになってしまいますが、歴史の要素をいろいろと織り交ぜているので結構面白いです。その中でも、同時期に現れたイスラム教の始祖マホメッドを登場させているところがなかなかすごい。天竺を目指している玄奘と自分の教義を見直したいというマホメッドがサマルカンドの近くですれ違ったのです。

 思えば、不思議なめぐり合いであった。もちろん、互いの名を知らない。イスラム教、仏教におけるそれぞれの存在価値も知らない。だが、7世紀という時代を生きた輝ける宗教界の二つの巨星である。東と西の活動範囲の違いはあるものの、その残した足跡の偉大さを疑う者はいない。
 その二人が、サマルカンドの西郊という中央アジアの一地点で、短いながらもめぐり合ったのだ。すれ違いといってよいほどの瞬時に、二人がそれぞれの相手に対し、畏敬といってもいい感情を抱いた。さすがというべきである。
(以下、略)

 本書は長編でなかなか楽しまさせていただきましたが、最後の方になるとちょっと息切れかなという感じでした。まぁ、人により感じ方はさまざまでしょうから、興味を持たれたら読んでみて下さい。

   

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