陋巷<(ろうこう)>に在り (1)〜(5)

酒見賢一 著
新潮社(全13巻)


 この書の冊数に圧倒されて、しばらく手を伸ばすことができませんでした。それは北方謙三さんの『三国志』全13巻と同じパターンでして、全巻出版されたという新聞記事を目にして、ついに手にしてしまったのも同じでした。
 陋巷とは聞き慣れないことばなので、広辞苑で引いてみると

ろう‐こう【陋巷】‥カウ
 狭くきたないちまた。むさくるしい町。論語雍也<(ようや)>「賢なる<(かな)>回や、一箪の<()>、一瓢の<(いん)>、陋巷に在り」
とありました。最後の文は『論語』の雍也編に書かれていることばです。
 また、孔子は「人は其の憂いに堪えざらんも、回や其の楽しみを改めず。賢なるかな回や」といっています。並の人間ならばとても耐えられそうにない所を、顏回はまるで楽しみかの如くして、一向に気に病む様子がないとほめているのです。

 孔子というと、言わずとしれた儒学の祖で、そのイメージは聖人君子という感じです。また『論語』などからずいぶん堅苦しい人という感じでした。しかし、本書に出てくる孔子はなんと「超能力者」(?)でした。主人公の顏回もそうですし、陽虎・少正卯他の仇役もすごい能力の人ばかりです。
 私は荒唐無稽な小説はあまり好みませんが、本書ではそういう感じをあまり抱かせません。それは2千数百年前の中国を舞台としていて、超能力関連以外はしっかりとした時代描写ができていると思われるからでしょう。いわゆる悪者はあくまでも憎たらしく、正義にはちょっと頼りないところがあってハラハラさせられるような所は、「○○演義」などに代表される中国の大衆小説のツボを抑えています。
 第5巻まで読みましたが、その超自然的なところがどうにも違和感があるので、ちょっと中断して頭を冷やす(?)ことにしました。本書の主要参考文献の最初に挙げられている白川静さんの『孔子伝』に寄り道します。

以下、裏表紙に書かれている売り文句を紹介しましょう。
【1 儒の巻】
聡明で強い呪術の能力を持ちながら、出世の野心なく、貧しい人々の住む陋巷に住み続けた顏回。孔子の最愛の弟子である彼は師に迫る様々な魑魅魍魎<(ちみもうりょう)>や政敵と戦うサイコ・ソルジャーだった‥‥。息づまる呪術と呪術の暗闘、政敵陽虎との闘争、影で孔子を護る巫儒<(ふじゅ)>の一族。論語に語られた逸話や人物を繰りつつ、大胆な発想で謎に包まれた孔子の生涯を描く壮大な歴史小説、第一部。
(92年、中島敦記念賞を受賞)
【2 呪の巻】
儒者の抵抗によって思わぬ苦戦を強いられた陽虎は、太古の鬼神・饕餮<(とうてつ)>を召喚。瞬く間に儒者の<(しかばね)>の山が築かれていった。その凄まじさに孔子の弟子たちは恐れをなすが、一人顏回だけは落ち着いていた‥‥。土俗的な術を使う政敵との熾烈な闘い、媚術で弟子を次々に骨抜きにする謎の美女の登場、更に許嫁<(いいなづけ)><()>と顏回の恋の行方は‥‥? ますます白熱する大歴史小説、待望の第二巻。
【3 媚の巻】
孔子に対抗して塾をかまえ、急速に勢力を拡大していく謎の人物、少正卯<(しょうせいぼう)>。その屋敷に住む妖艶な美女、子蓉<(しよう)>は恐るべき性魔術・媚術の使い手だった。練達の儒者である子路をはじめ、孔子の弟子が次々と子蓉の術の虜となり、ついに魔の手は顏回へと及んだ。透徹した精神と類稀な呪術を備えた顏回さえも、子蓉の掌中に落ちてしまうのか? いよいよ佳境に突入する大河娯楽巨編、第三巻。
【4 徒の巻】
孔子一門をねらいうちにしてゆく妖艶な性魔術使い子蓉は、唯一術をやぶられた顏回を籠絡すべく陋巷を訪れ、ついに顏回の許嫁の美少女、に出会う。子蓉から鏡をもらった、だが、そこには恐るべき媚術が施されていた‥‥。一方、三都の連続毀壊を密かに企てた孔子は、協力を申し出た政敵少正卯の真意を測りかねていた――。想像を絶する凄まじい死闘が繰り広げられる急転直下の第四巻。
【5 妨の巻】
とうとう業師五六まで取り込まれてしまった‥‥。媚術に操られた美少女、は、厳重な見張りをものともせず、次第に国を揺るがしかねない勢力を形成してゆく。一方、孔子の使者として費城に赴いた公冶長は、そこで意外な裏切り者と対面した。少正卯一味に攪乱される孔子一族の危機。春秋の世を戦国の世に踏み込ませていったのは誰か――。東洋の房中医学にも分け入る、興味津々の第五巻。



戻る