国士無双

伴野朗 著
詳伝社文庫


 「国士無双」と聞くとマージャンをご存じの方にはおなじみのことばですが、この本はマージャンとは全然関係ありません。(笑)私は、これまで何気なく使ってきましたが、『漢字源』には次のように書かれています。

【国士無双】コクシムソウ
国じゅうで比べる者がないほどにすぐれた人。〔→史記〕
 本書の主人公は秦王朝末期の楚漢戦争で勝利を収めた劉邦(後の漢王朝を開いた高祖)を助けた武将、韓信です。この楚漢戦争については、司馬遼太郎さんの『項羽と劉邦』に詳しく書かれており、これを読むと、なんとなく本書を読むまでもない気がします・・・・。また、この時代を舞台とした宮城谷昌光さんの短編集『長城のかげ』があります。
 韓信について、『広辞苑』からの引用です。
かん‐しん【韓信】
漢初の武将。蕭何<(しょうか)>・張良と共に漢の三傑。江蘇淮陰<(わいいん)>の人。高祖に従い、蕭何の知遇を得て大将軍に進み、趙・魏・燕・斉を滅ぼし、項羽を孤立させて天下を定め、楚王に封、後に淮陰侯におとされた。謀叛の嫌疑で誅殺。青年時代、辱しめられ股をくぐらせられたが、よく忍耐したことは「韓信の股くぐり」として有名。(― 〜前196)
 以下の話は劉邦が項羽を敗った原因を自己分析したものとして『史記』に書かれている有名なエピソードです。
 劉邦は首都洛陽の南宮に諸侯や諸将を集め、酒宴を開いていた。劉邦は庶民の出身である。貴族出身の項羽に勝ったことが嬉しくてたまらない。酒が回るうちに、彼は上機嫌になった。彼は杯を挙げて一座の者にいった。 「朕が天下を取った理由は何か。また項羽が天下を失った理由は何か。ひとつ、腹蔵のない意見を聞かせて欲しいものだな。」
 安国候の王陵が、いった。
「陛下はどちらかといえば、傲慢で相手を見下すところがあります・・・・・」
 :(中略)
「お前たちは一を知って、二を知らない・・・・」
 彼は王陵と高起の顔を等分に見た。
「よいかな。帷幄帷幄<(いあく)>のなかに謀をめぐらし、千里の外に勝利するという点では、朕は張良にかなわない。内政の充実、民生の安定、軍糧の調達、補給路の確保ということでは、朕は蕭何に及ばない。百万もの大軍を自在に指揮して、勝利を収めるということでは、朕は韓信の敵ではない・・・」
 彼は一気にそういい切った。今度は満座を見渡して、宣言するようにいった。
「この三人は、いずれも傑物といってよい。朕はこの傑物を三人も使いこなすことができた。これこそ、朕が天下を取った最大の理由だ・・・・」
 彼は言葉を続ける。
「逆に項羽は、それができなかった。彼にも范増<(はんぞう)>という傑物がいたが、その一人すら使いこなせなかった。これが、項羽が朕の餌食になった理由である」
 劉邦は胸を張って、大杯を一気に干した。一座から、納得の声があがった。
 このように劉邦は分析しました。韓信は連戦連勝の将軍で、兵を指揮して一度も敗れたことがないという人物です。国士無双というのはこの韓信のことですが、最後には不運が待っていました。
 中国のことわざにこういうものがあります。厳しい現実でした。
  狡兎死して、走狗<()>られ
  飛鳥尽きて、良弓<(おさ)>められ
  敵国敗れて、謀臣<(ほろ)>

 国士無双

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