<(ぎょう)>帝春秋

中村隆資 著
講談社


 <(ぎょう)>は中国古伝説上の聖王といわれている人物で、陶唐氏、名は放勲です。帝<(こく)>の子で、中国神話時代の五帝と呼ばれているうちの一人です。<(しゅん)>と並んで中国の理想的帝王とされています。これについては、堯風舜雨という言葉がこれを表しています。中国古代の伝説上の聖天子、堯と舜の徳があまねく行きわたったのを風雨のめぐみにたとえているのです。転じて、天下が泰平であるさまで、堯雨舜風とか舜日堯風ともいいます。
 本書はかなりの難物です。どちらかというと、作者の歴史観(または経済観)を堯の時代に合わせて書かれているのではないかという気がします。文章も難解なところがありますし、それなりの覚悟を持って読む必要があります。一つの文が1ページ以上にもわたって延々と書かれているのが何ヶ所かあります。漢字の使い方もちょっと難しくて、前の方を見直すこともしばしばでした。
 しかし、まだ文字もないこんな昔のことを題材にして、よくぞ書かれたものです。舜については、宮城谷昌光さんがその作品、侠骨記の中の布衣の人で書かれていますが、イメージはかなり違っています。

 本書の最大のテーマは、実と虚の対立です。
 堯は商氏の大いなる陰謀を発見します。大いなる陰謀とは、虚により多くの部族からなる<連合>の帝位を簒奪しようとするものです。ここでいう「虚」とは、現代で一般的に行われている通貨経済における貨幣に他なりません。商氏が多く算出していた塩を貨幣として実体である穀物の流通を支配し、その結果<連合>をも支配しようとするものです。
 ここで書かれている商氏の末裔が後に商(殷)王朝を立てる湯王の部族なのでしょうか。そこまでは書かれていませんが、なかなか想像をかき立てさせてくれます。かなり後の時代になりますが、湯王を輔けて商(殷)王朝を立てた立て役者である名宰相伊尹<(いいん)>を描いた宮城谷昌光さんの作品、「天空の舟」につながっていくのでしょうか。

 

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