中国英傑伝

海音寺潮五郎 著
文春文庫


 本書は古代中国で活躍した英雄達をとりあげ、「日本と比べると格段にスケールの大きい中国の歴史の片鱗を、少しでも面白く味わってもらい、知識を豊かにして欲しい」という海音寺さんの念願を表したものです。このような目的なので、多少物足りなさがないではありませんが、春秋戦国時代から前漢までという長い時代を短時間で楽しむことができます。海音寺潮五郎さんの作風は、重厚さはないもののとても読みやすいものです。
 本書は大きく分けて3つのパートに分けられます。

(1)秦の始皇帝の死後、項羽と劉邦の争いから、劉邦(漢の高祖)の死後実権を握った呂氏が滅ぶまで
 これは司馬遼太郎さんの「項羽と劉邦」と大部分重なっていますが、劉邦の死後のゴタゴタもあり、少し時代範囲が広くなっています。

(2)春秋時代の覇者総登場
 春秋時代、力のなくなった周王に代わって諸侯を集め、会盟を開いた人を覇者と呼びます。中国人は5という数字が好きなのか、彼ら覇者をまとめて「春秋の五覇」と呼びますが、人によって5人の顔ぶれが違っています。
【孟子の説】斉の桓公(かんこう)、晋の文公、秦の穆公(ぼくこう)、宋の襄公、楚の荘王
【荀子の説】斉の桓公、晋の文公、楚の荘王、呉王闔閭(こうりょ)、越王勾践(こうせん)
【後漢の趙岐(ちょうぎ)の説】斉の桓公、晋の文公、宋の襄公、秦の穆公、楚の荘王
【唐の顔師古(がんしこ)の説】斉の桓公、晋の文公、宋の襄公、秦の穆公、呉王夫差(ふさ)
 組み合わせは違っていますが、ここに登場する8人のお話です。この他にも評判が良くなくて覇者と呼ばれる資格がありながら、そう呼ばれない楚の霊王という人もいます。

(3)戦国時代、秦が中国を統一するまで
 戦国時代は秦という大国とその他の国が争う時代です。公孫鞅(商鞅)という人がこれまでの中国の政治(徳治主義)を法治主義に一変させて国力を蓄え、結局秦が統一することになります。
 この秦に対抗するために、蘇秦(そしん)という人は連合して秦と争うという合従(がっしょう)策を称えました。また、連衡(れんこう)というのは、秦と和睦する策です。

 実は、上の(3)戦国時代は26ページしかありません。その前のパートに比べてかなりボリュームが少ないのですが、持病が悪化したために書けなくなったそうです。海音寺さんのもくろみとしては、もっとたくさんの英傑を書きたかったようです。

【本書あとがきより引用】
 戦国時代に入って、この時期に中国に輩出した天才的学術人、天才的政治家、天才的戦術家、刺客、孟嘗君以下の四君等のことを書き、始皇帝の天下統一の次第とその施政ぶりを書き、次は漢に入り、後漢に入り、三国時代に入って、曹操、劉備、孫堅、孔明、関羽、張飛等の活躍を、演義三国志ではなく、正史の三国志で書くところまで計画を立てていたのですが、呉越の抗争を書き進む頃から、体調に違和を覚えはじめました。
(後略)

うーん、残念でした。

   

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