童貞

酒見賢一 著
集英社文庫


 本書の題名といい、シャのシィのグンという男が処刑(屠殺)される凄惨な出だしといい、とてもインパクトのある作品でした。
シャのシィのグン。
シャの地のシィという部族のグンという男。
グンがすべてを賭して戦ったのは、荒ぶる大河と地を支配する女たちである。
すなわち、女たちの反対を押しきって、治水を進めたのがグンの生涯だった。
グンが河に破れて、女たちに処刑された時、グンの志はその少年、シャのシィのユウに受けつがれ、そしてユウの遙かなる旅が始まる。
人類の歴史を遡行する、雄大な物語。
 大昔、シャという国は女中心の世界で、男はというと、「父親」という概念もないくらいの存在でした。男は狩りなど「程度の低い」作業をやるのと、近くを流れる河(これも女神)が氾濫しないように生け贄にされていました。
 このように男が自分の意見をいうのもはばかられるような世界でグンという男が生け贄にされそうになったとき、河の氾濫を6年で治めてみせると大きなことをいいました。首長である大女は不服ながらもやらせてみることにします。グンは男たちをまとめて治水に取りかかるのですが、大雨により河は氾濫してしまいます。その罰として大女はグンを処刑してしまいます。
 少年ユウはこの処刑の光景を見ていました。ユウは成長するにつれて女の中にいるのがいやになってきました。グンはユウをかわいがっていましたし、男と女のことを聞いていたのです。少年の時は家出したりもしましたが、結局おとなしく女の下にいるしかありませんでした。
 そして、青年となったユウはついにそれまで心に秘めていたものを実行に移します。世界を変え、河を治めるというグンの実現できなかったことです。

 最初のところでは「シャのシィのグン」とか、「シャのシィのユウ」とか何がなんだかわかりませんでしたが、読んでいくうちに、「シャ」とは<(シャ)>のことではないかとか、「ユウ」とは、聖王といわれた<(ユウ)>のことではないかと思い当たりました。でも、考えてみれば、夏の時代にはまだ文字も存在していない(といわれている)のでした。
 最後に「作者蛇足」として酒見さんはこのように書かれています。
 漢字に付された音というものは古代よりそれほど変化していないという。この小説の登場人物の名の音に、その頃にはまだ存在しなかった漢字を敢えてあてようと思えば、シャは<(xia)>、シィは<(si)>、ユウは<(yu)>であり、グンは<(gun)>となろう。テュシャンは塗山<(tushan)>か。ただし実際そんなことはこの小説にとってどうでもよいことである。

 童貞

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