中国武将列伝

田中芳樹 著
中公文庫


 本書は春秋時代以降、中国の長い歴史の中に登場した名武将を百人選び出し、その人達を通して中国のことをいろいろとお話ししましょうというコンセプトです。書き言葉ではなく、話し言葉で書かれているので講演会を聞いているような感じがします。
 中国を題材にした歴史小説などを読んだあと、興味を持たれたような方には手っ取り早く主な人物と時代背景を知ることができるのでオススメかもしれません。でも、以下に書くようにかなりの条件を付けておられますので、私から見ればちょっと残念なところがあります。

 中国の武将と一言でいっても、すごい数の人がいるわけでその中から百人を選ぶというのは結構大変そうです。そこで、選ぶために4つの条件を挙げられました。

(1)帝位についた人物は除外する。
(2)どちらかというと文官である人物は除外する。
(3)清朝滅亡後の人は除外する。
(4)特定の時代に偏ることを避ける。
 結果として下記の99人を選ばれました。私としては、上の(1)と(2)は外した方が良かったのではないかな、と思っています(作品の性格が違ってしまうかもしれませんが)。著者が文官として外した人の中に、兵を率いた人がいますし、結構私にとって???と感じた人が多かったです。それに、帝位についた人でもそうでない人でも同じ武将として取り上げた方が嬉しかったです。理由はいろいろと述べておられますが、中途半端な感じを受けました。
 あと、百人に一人足りませんが、あえて空席にしておき、残りの一人を選ぶのは読者に任せるとのことです。

春秋時代 孫武<(そんぶ)>伍子胥<(ごししょ)>(名は員)、范蠡<(はんれい)>趙襄子<(ちょうじょうし)>(名は無恤<(ぶじゅつ)>
戦国時代 呉起<(ごき)>孫臏<(そんぴん)>楽毅<(がくき)>田単<(でんたん)>廉頗<(れんぱ)>趙奢<(ちょうしゃ)>信陵君<(しんりょうくん)>(姓名は魏無忌<(ぎむき)>)、李牧<(りぼく)>
秦時代 白起<(はくき)>王翦<(おうせん)>蒙恬<(もうてん)>
漢楚争覇時代 項羽<(こうう)>張良<(ちょうりょう)>韓信<(かんしん)>
前漢時代 周亜夫<(しゅうあふ)>(父は周勃<(しゅうぼつ)>)、李広<(りこう)>衛青<(えいせい)>霍去病<(かくきょへい)>趙充国<(ちょうじゅうこく)>鄭吉<(ていきつ)>陳湯<(ちんとう)>
後漢時代 ケ禹<(とうう)>馮異<(ふうい)>岑彭<(しんぼう)>馬援<(ばえん)>班超<(はんちょう)>曹操<(そうそう)>関羽<(かんう)>周瑜<(しゅうゆ)>
三国時代 司馬懿<(しばい)>陸遜<(りくそん)>ケ艾<(とうがい)>
東西両晋時代 杜預<(とよ)>王濬<(おうしゅん)>陶侃<(とうかん)>祖逖<(そてき)>謝玄<(しゃげん)>
南北朝時代 檀道済<(だんどうせい)>韋叡<(いえい)>楊大眼<(ようたいがん)>斛律光<(こくりつこう)>蘭陵王<(らんりょうおう)>(姓名は高長恭)、蕭摩訶<(しょうまか)>
隋時代 韓擒虎<(かんきんこ)>劉方<(りゅうほう)>張須陀<(ちょうすだ)>
唐時代 李靖<(りせい)>李勣<(りせき)>秦淑宝<(しんしゅくほう)>(名は<(けい)>)、尉遅敬徳<(うつちけいとく)>(名は恭)、蘇定方<(そていほう)>(名は烈)、薛仁貴<(せつじんき)>(名は礼)、王玄策<(おうげんさく)>裴行倹<(はいこうけん)>高仙芝<(こうせんし)>郭子儀<(かくしぎ)>李愬<(りそ)>(父は李晟<(りせい)>)、李克用<(りこくよう)>
五代十国時代 王彦章<(おうげんしょう)>周徳威<(しゅうとくい)>
宋・遼・金時代 曹彬<(そうひん)>楊業<(ようぎょう)>(小説では楊継業)、耶律休哥<(らりつきゅうか)>穆桂英<(ぼくけいえい)>(女性)、狄青<(てきせい)>宗沢<(そうたく)>岳飛<(がくひ)>韓世忠<(かんせいちゅう)>(妻は梁紅玉<(りょうこうぎょく)>)、宗弼<(そうひつ)>(女真名は兀朮<(ウジュ)>)、虞允文<(ぐいんぶん)>孟珙<(もうきょう)>完顔陳和尚<(かんがんちんわしょう)>張世傑<(ちょうせいけつ)>
元時代 伯顔<(バヤン)>郭侃<(かくかん)>拡廓帖木児<(ココテムル)>
明時代 徐達<(じょたつ)>常遇春<(じょうぐうしゅん)>姚広孝<(ようこうこう)>(法名は道衍<(どうえん)>)、鄭和<(ていわ)>于謙<(うけん)>王守仁<(おうしゅじん)>(号は陽明)、戚継光<(せきけいこう)>袁崇煥<(えんすうかん)>秦良玉<(しんりょうぎょく)>(女性)、鄭成功<(ていせいこう)>
清時代 多爾袞<(ドルゴン)>明亮<(ミンリャン)>楊遇春<(ようぐうしゅん)>李長庚<(りちょうこう)>関天培<(かんてんばい)>僧格林沁<(センゲリンチン)>李秀成<(りしゅうせい)>(太平天国)、石達開<(せきたつかい)>(太平天国)、劉永福<(りゅうえいふく)>

 この99人の武将のうち、何人ご存じでしたでしょうか?
 著者は本書の中で何度も繰り返し「日本人は三国志以外の歴史を知らない」、たとえば諸葛孔明に対するイメージは日本人の考えるほど中国人にとっては高いものではないというようなことを書かれています。中国人にとっては歴史上のスーパーヒーローは秦淑宝であり岳飛であるが日本人はそれを知らないと嘆いておられます。
 しかし、ちょっと待てよ。外国人である日本人が中国人と同じように考えることはないのではないか?私みたいに中国にかぶれてしまった人間はともかく、中国歴史上の人物の中で諸葛孔明が一番好きでもいいのではないか・・・と思ってしまうのです。
 著者は深い造詣をお持ちでしょうから、歯がゆく思われるのかもしれませんが、「べつにいいんじゃない?」というのが私の感想でありました。

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