あなたの胸で眠りたい −長安遊侠傳

藤 水名子 著
集英社


 題名からしてわかるように、ちょっとメロドラマ風の作品です。この手の分野は私の守備範囲ではないのですが、副題「長安遊侠傳」に惹かれて読むことにしました。

唐の都・長安、春。栄華の街を疾駆する美貌の女詐欺師・瑶瓊(ようせん)。胸のすく大立回りと共に、女心が、激しく切なく妖しく揺れる。中国活劇恋愛小説という新ジャンルを切り拓いた会心作。
 舞台は8世紀前半、唐の都長安です。その美貌で貴族のドラ息子たちを手玉にとって金品を騙し取る瑶瓊<(ようせん)>は、射干姫<(ひおうぎ)>怜娘<(れんじょう)>と呼ばれていました。射干というのは「しゃが」という花の意味ではありません。同じ名で呼ばれるあやかしの狐のことでもなく、その何倍か悪賢いとされる伝説上のけもののことだそうです。瑶瓊の相棒は少年従者役を演じる蒲建という男。背が低く童顔なので少年のように見えるのですが、実際には20歳を過ぎています。瑶瓊が貴族のドラ息子たちを騙して、高価なアクセサリを巻き上げては蒲建が売り払うという連係プレーは見事。

 瑶瓊は元はといえば名家の生まれでしたが、ある事件に巻き込まれて一家は潰滅し、生き残っているのは瑶瓊と異母兄弟の勇烈という二人だけになっていました。
 勇烈はかつて大将軍の養子に出されていたのですが、両親が死んでその家を飛び出しました。そして博徒たちから夙狼<(しゅくろう)>とあだ名されて恐れられるような遊侠になったのです。その勇烈も今は場末の居酒屋の親爺をして堅気になっています。男たちを手玉にとって暴れまくる瑶瓊もこの兄だけには弱く、なかなか兄の店には近づけません。

 そんな瑶瓊を手玉にとった男がいました。瑶瓊がどこかの若旦那と思って近づいた竇進<(とうしん)>という男で、実は一帯を縄張りとするヤクザの若親分だったのです。竇進は瑶瓊の体を無理やり奪うのですが、なんと瑶瓊に本気で惚れてしまいます。瑶瓊はくやしくて仕返ししようと思い、竇進に気のあるようなそぶりをします。瑶瓊を追いかける竇進、そして竇進を騙そうとする瑶瓊、そんな瑶瓊のことを本気で心配する勇烈。

 長安の色街平康坊。そこを舞台に瑶瓊・勇烈・竇進を中心とした個性あふれる役者たちによって繰りひろげられるメロドラマという感じです。瑶瓊・勇烈は兄弟でありながらお互いに惹かれています。竇進は暴れ者ですが単細胞で憎めません。そのまわりの人々も生き生きと役を演じています。
 最初の方は活劇風で好みでしたが、最後の方になると甘ったるく感じてしまいました。「遊侠傳」として話が進んでいって欲しかったと思いました。(そう思うのは私だけかもしれませんが・・・)
 好みはいろいろですよね。


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