赤いランタン

藤 水名子 著
集英社


 本書の副題には「中国怪奇幻想小説集」と銘打ってありますが、私は勝手に「中国ファンタジー&ミステリー」と名付けました。(最近、こういうパターンが多い・・・)
 本書には8編の短編小説が収められています。失礼ながら、作者の藤さんを本書を読むまで知りませんでしたが、中国を舞台にした作品を書いておられるようで、1991年には唐末の中国西域を舞台にした『涼州賦』で第4回小説すばる新人賞を受賞されたそうです。
 各作品は中国の古典や歴史を題材にしているそうですが、残念ながら私にはそれほどの知識がありませんので、残念ながら原作と比べることが出来ません。しかし、本書を読むとミステリーとして、かなり緻密に構成されているのがわかります。中国を舞台にしているといっても、日本のいわゆる「怪談もの」のような雰囲気があり舞台を日本に持ってきても全然違和感なさそうです。「こわい」ものが苦手な人は読まない方がいいかも・・・(笑)

秘密
 秘密にされた過去の罪の結末を描きます。
 韋固は中年を過ぎて、初めて梨蘭という妻を得ました。美麗な十七歳の乙女である梨蘭の額には生まれながらの醜い痣がありましたが、寝所で夫の腕に抱かれるときも額の化粧を落とそうとしませんでした。
 ある夜、韋固は梨蘭に十数年前、「赤い縄」を掌っているという老人と遭遇したことを話しました。そのとき自分の妻となるのは市で野菜を売っている不器量でわずか三歳の娘であると言われたのです。韋固はそれが納得できず、その娘を殺そうとしたことまで妻に話しました。それを聞いた妻は言葉を失って額の化粧を落とすと、そこには醜い刀傷が・・・。
 韋固が十数年前に殺そうとしたのは自分の妻だったのでした。

恋情
 昔の恋人を恋慕する女と、それを裏切る男の不実を描きます。
 都・長安には去っていった恋人をひたすら待ちわびる霍小玉という娘がいました。彼女は戻ってくると誓いを立てて恋人が出て行ってからというもの、泣いてばかりで、ついには病気になってしまったのです。
 その恋人李益は進士に及第し、官職を得て単身で任地に赴いて、そこで結婚していました。そして、都への凱旋を果たしたのですが、小玉のこともありごく親しい友人以外にはひた隠しにしなければなりません。友人の一人は彼に小玉に会いに行くよう進めるのですが、会いに行こうとはしません。
 酒に酔ったとき、李益と友人は不思議な人物に出会います。

金の<(くつ)>
 この作品のもとになったのは「シンデレラ」でしょうか。
父親が亡くなり、可愛がられていた葉限は継母とその娘にいじめられるようになります。下女の着物を着せられ、寝泊まりするのは藁の上でした。
 年に一度、年頃の娘が着飾って家の外に出る仲春のお祭りの出来事でした。そこで、継母の娘は街角で美しく着飾った姉を見たというのです。継母はそんなはずはないといいますが・・・

現身<(うつしみ)>
 不思議な世界に生きる女を描きます。
 自分は誰? どこから来て、どこへ行くの?
 喬生は言いようのない不安を抱えていました。彼女は病気で長い間閉じこもっていましたが、物心ついたときからずっとそばにいてくれる忠実な侍女が縁談を持ち込んできました。

天の川のほとりで
 七夕伝説を題材にしたお話です。最期の結末がおそろしい。
 小杏は年寄りの話を聞いてあげるのを楽しみにしている子供でした。多くの年寄りは「本当の七夕の話を聞かせてやろう」と言って子どもたちに聞かせてやるのですが、今夜話している老爺は「意味のない祭じゃ。七夕というのは、そもそも年に一度の、男女にとって、もっともうとましい晩なのじゃから」「それを、幸せな逢瀬の晩などと、勘違いもはなはだしい。世間のやつらは皆、大馬鹿者じゃ」と言い出すのです。

雨宿り
 たまたま荒れ果てた道観(道教の寺院)で出会った二人の道士のおはなし。
 偶然旅で雨に降られ、道観に泊まり合わせた二人の道士はすぐに親しくうちとけました。はじめはたわいない道教の術自慢でしたが、そのうち、言い争いになりました。そして、ついには道術勝負で争うことになるのです。

赤いランタン
 街や川のほとりで見知らぬ女と出会った若者がその女と恋に落ち、一夜を共にするという話は六朝の志怪小説に多くみられるそうですが、その時代背景を近代に移したものです。中国には蛇が化して美女となり、若者を淫するという白蛇伝説も加味して不思議な世界を描いています。
 趙亮はその容貌を武器に、名家の奥方たちの相手をして金を巻き上げる男でした。数年前までは学問に励むまじめな学生でしたが、田舎の暮らしを嫌って都会に出てきて別人に変わってしまったのでした。
 趙亮は上海のダンスホールで決してダンスの群れに加わろうとしない、そのひとに目を奪われてしまいました。しかし、相棒の張は彼女に近づくなと警告します。上海の二大秘密結社の一つである青幇とつながりがあるというのです。
 蘇州河のほとりを歩いていた趙亮は橋のたもとにたたずむ、その女と出会います。彼女は「ダンスホールで自分を見ていたわね」といいます。その後、気がついたら黄浦江沿いの高級ホテルの一室にいました。そして、何度か逢ううちに一緒に蘇州の屋敷に来ないかと誘われて、行くことにするのですが・・・

帰郷
 これも男の身勝手を描いています。
 柴英進は貧しい故郷に両親と妻を置いて逃げ出し、都へ行って官職を得、宮廷内に勢力を持つ吏部尚書の女婿になったのでした。そして、広い屋敷を持ち栄達を果たしたという思いでしたが、妻との間がうまくいっていませんでした。
 妻の事に疲れ、英進が十年ぶりに帰郷すると昔住んでいた家はそのまま残っていました。両親と妻は流行病で死んだとばかり聞いていたのに、そこには自分を待っていた妻がいるのです。



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